撮影余話この一枚 〜 蛇の使い手

チャッ、チャッ、チャッ、チャッ…… なにやらリズムが響いてくる。2004年、モザンビーク中部地方の町外れ、赤土がむき出しの広場らしきところに人垣ができていた。催しのひとつの演目らしい。聞くと、国際的NGOによる衛生や教育の一大キャンペーン。人気バンドのライブなど盛りだくさんのイベントを開いて、近隣の村人たちを集めるのだという。

人だかりの輪をのぞくと、足を踏みならし腰をふる人に、太鼓の音を響かせる人。男女が輪になって踊りながらステップを踏んでいる。木の実のアクセサリーがついた足が地を鳴らし、揺れる肩越しには、なにか波打つ鮮やかな黄緑色のライン。踊る人から人へ、首に腕にとからみつき、その先端に何かがうねる。それは生きた蛇だった。踊り手たちは蛇をあやつり踊っていた。「蛇には毒があるんだよ」人だかりの一人が言う。「彼らは修行を積んでいるから大丈夫」

一段落して踊りが終わると、蛇たちは箱に納められた。地面には、ぽつんと皮の小鼓のような楽器が一つ。木の風合いのつややかさにみとれ、思わず手を伸ばした。すると、「さわるな!」怒号が飛んできた。強面の男が近づいてきて言う。「精霊がいるんだ。触れてはいけない」すごい剣幕で。「大事な儀式のものなんだ」まるで子どものように叱られて、わたしのうろたえた視線が宙をさまよう。すると、近くに座っていた老人と目が合った。どこか深みのあるまなざし。さっきの蛇使いの一人だった。その目には心なしか微笑みが浮かんでいる。思わず、カメラを手にその目に合図しながら、シャッターを押させてもらった。

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