ポジフィルムがネガ現像されて… 撮影余話1988ブラジル

 まさか、そんな… ポジフィルムの現像がプリントで仕上がってきた… それもひどい色かぶりで。初めてブラジルに行った1988年。モノクロで撮影しつつも、メインはコダクロームのポジフィルムを使っていた。長期滞在だったので、現地でも何本かフィルムを現像。プロが使うという現像所に発注した。ところが、店の手ちがいとかで、なんとポジフィルムをネガフィルム扱いの処理をされてしまった。仕上がってきたのは、ネガのようなフィルムと、黄色がかぶったプリント…  旅に携えた貴重なフィルムと、二度と出会えない時の記録がボツになった、そのショックは大きかった。帰国後は棚の奥の箱に、見ることもなく、けれどなんだか捨てることもできず、ずっとそのままに。

 すっかり忘れていたシロモノたちを棚の整理で再会。コマによっては色かぶりが微妙に異なるが、全体に黄色味が強い。そしてコントラストはかなりキツイのだけれど、ばらつきがある。まるで切り貼りして取って付けたように、人物が浮き出て見える妙な具合のもある。古い記憶がよみがえってきた。そうだ、店のスタッフが言っていた。あまりにコントラストが強かったので、プリントする時にストッキングをフィルターがわりにしたと。当時の日本ではありえない、まれな経験でもあった。時が経ってみると、黄ばんだ画像がレトロな趣とあいまって、思い出に溶け込んでいる。

 なかには、リオの国立博物館で写した写真もあった。キンタ・ダ・ボアビスタ公園にあるかつての宮殿だった建物で、アメリカ大陸最大級の自然史人類学考古学的な所蔵をほこる博物館だった。一枚の黄色い写真から、足裏で床がギシギシした音や感触、古びた匂いがよみがえる。平日だったせいか、来訪者は少なく、しんと静まり返った空間。そこに無造作に並べられた古びたものたち。目を引いたのは、ブラジル北部アマゾン川中流サンタレンあたりのタパジョーの土器だった。ちょっとばかり縄文をイメージさせるものがあり、動物をかたどった飾りがついているものも。どんな人たちが作ったのか、時空を超えて思い馳せたことを思い出す。同博物館は、2018年、大火災が発生、所蔵品の約9割を消失したという。

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