初めてブラジルを訪れた1988年は、奴隷制廃止からちょうど100年の年だった。歴史を深く知ることなく、たまたま居合わせたリオのセントロ。水道橋のあたりでは、奴隷制廃止から100年を祝う「祭典」が開かれていた。暗闇と群衆にまぎれ、目立たないように押したシャッター。同じようにフェンス越しに見ていた人たちは、ほとんど黒人系の横顔… 祝祭にはなりえないような、どこかアイロニーを感じたことを思い出す。
サンバにカポエイラなど、アフリカの影響を受けた文化は、いまやブラジルを代表するカルチャー。けれども、2015年、ブラジル音楽界の黒人大御所が教育テレビ番組で話していた。「いまでも差別や偏見と戦っている」と。
そもそもの歴史もある。アフリカから奴隷貿易で「輸入」された肌の黒い人々。その総数は北米をはるかに超えたおよそ500万。ブラジルは世界最大の黒人奴隷輸入国だったという。300年以上つづいた奴隷制の廃止は1888年、世界で一番遅かった。これについては『ブラジルの歴史を知る50章』(明石書店)でくわしく記されている(8章「アフリカ人奴隷」、21章「奴隷制の廃止」など。同書は2022年、ブラジル独立200年の年に刊行された)。
その一方、多様性を尊重する施策も。2011年、奴隷解放に尽力した人物の命日にちなんで、11月20日が「黒人意識の日」に制定された。一部の州や市などでは休日になっている。また、黒人や女性などに対して、大学の割当制や、選挙候補者などに選挙基金の配分割増などの差別是正の政策も取られてきているという。