タンボール・ヂ・クリオーラ〜魂の鼓動

ただ、一度しか見ていないのだけれど、記憶に残りつづけるものがある。
その一つがブラジルの「タンボール・ヂ・クリオーラ/tambor de crioula」、北東部マラニャン州サン・ルイスで見た伝統的なパフォーマンス。

マラニャン州というと、今では、広大な白い砂丘がつづくレンソイス・マラニェンセス国立公園とか、フォルクローレの祭りブンバ・メウ・ボイ(地域によってはボイ・ブンバ)を思い浮かべる人もいるかもしれない。州都サン・ルイスも、歴史地区がユネスコ世界文化遺産になっている。

夜の広場で、男が声を上げた。さらに男たちの歌声が合流。
つづいて、タンボール(太鼓)が加わる。
そして、女たちの踊り。白い上着に花柄の裾を広げて、くるくる、くるくると。
まわりまわって、太鼓の男と絡みあう。

全体の構成は、わりとシンプル。その分、それぞれがソロでも際立っている。
タンボールの鼓動と奏者の気迫。夜空を揺るがす魂から湧き出すような歌声。
それがあたりに満ち満ちて、観客たちも取り込まれ、やがて一つになる。
そして、缶ビールを片手に持った男衆おっちゃんのご愛嬌に、風格ある女たちの地に映える腰さばき…

民族劇としても知られるボイ・ブンバと違って、とくに演劇性はなく、楽器もタンボールのみ。
この地に根ざした伝統芸能色が濃い。

それというのも、そもそもの起源は、アフリカから奴隷として連れてこられた人々が故郷から持ち込んだものという。
サン・ルイスも奴隷を受け入れる港の一つだったのだ。
当時、過酷な労働と人種差別のなかで、タンボール・ヂ・クリオーラは人々の心の支えだった。
心を揺さぶる太鼓の響きと歌声は力強く、生きる力や希望を後押ししたともいわれている。

いまでは、ユネスコの無形文化遺産に登録され、宗教的な儀式や収穫を祝う祭りの場、その他さまざまなイベントで演じられている。

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