見えない小さな虫たち

 イチッ! 足先に走る鋭い痛み。みると、足の指に頭がでかいアリが食らいついている。
足を振っても、ちょっとやそっとでは落ちない。なんとか引き離したものの、しばらく痛みが残った。
南米アマゾンの奥地。噛まれるとものすごく痛いという、3センチほどの大きな蟻もいた。
東ティモールでは、トイレで用を足している最中に、なんと足先にサソリが… 。
たまたま出かけた先々で、出会った小さな生き物たち。デング熱やマラリアなどをもたらす蚊だっている。
 ただし、これらは地域によって流行や傾向があるようなので、前もって情報を確認できればいい。それで注意したり対策したりできる。

 厄介なのは、知らずにいて、突然とか、いつのまに… とかいうヤツ。
ちょっとしたスキにやられてしまう。どれもこれも、あなどれない。

 インドネシア、スマトラ島のジャングルでは、体を曲げてはびよ〜んと伸びるヒル。
何か変だなと感じて、長靴を脱いでみる。すると、すでに足やふくらはぎに3匹ほど。
くっついているヤツを振り払っても、滴る真っ赤な血はなかなか止まらない。
そして、すぐにまた、別のヤツが長靴に登ってくる。そのスピードはなかなかのもの。
うっかりしていたら、上着のシャツの中、お腹まわりもやられていた。

 なんかへんだな、チクリとする、と思ったら、膝近くに黒い点ができていた。
ペルーアマゾンの森で野営をしていたときのこと。皮膚の浅いところに、何かが潜り込んでいるのだった。
プチっと絞り出したが、あとで、それはやっちゃいけないと言われた。
上手く取り除けず、部分が残ってしまうことがあるらしい。ピンセットなどの手持ちがない場合は、虫除けスプレーなどを使って、ダニが死ぬまで待つという手もあるという。

 ダニといっても、目でわからないのも多い。ちょっと乾いた草地を歩くと、身体中が痒くなる。
ブラジルではムクインと呼ばれていたヤツら。体温が高いところにいつくといわれ、下着の微妙なあたりもかゆみが激しい。地元でアンジローバというハーブ油でやわらぐと勧められ、なんとかやり過ごした。それでも、方々で悩まされた。洗濯石鹸とか熱いシャワーとかで落ちると言われ、たしかに、町に戻ると自然と消えていった。

 あるとき、歩くたびに足先に痛みを感じるようになった。ブラジルのアマゾン奥地から町に戻って一週間ほど経ったころ。なんとなく痒みもある。よく見ると、足の指先に黒い点ができていた。血まめなのかトゲなのか。

 イタイ! 手の指でつまんでみると、鋭い痛みが走る。トゲなら痛いのを我慢してすぐに取り出さなければ。
思い切って指に力を込めてつまんだ。すると、その途端、パラパラパラっと、白っぽく小さな粒々が飛び散った。

 なんだ、これは!? まるでカプセルに入っていた粒子状の薬の粒のよう。足の指先に目を凝らすと、半球状に小さくえぐれた穴がある。粒々が格納されていた箇所のようだ。もしかして何か虫の卵? さらに、穴の奥には何かが見える。白っぽく、ぐにゅぐにゅしたようなもの…とにかく、モノをすべて出しきらなくては。指で強くつまんで押し出したり、携帯していた裁縫針でほじくったりした。

 急いで宿の人に虫らしき正体のことを尋ねた。
「ああ、それはビッショ・ジ・ペーだね(bishop-de-pé)」。
日本語ではスナノミと呼ばれるノミの一種。「むかしは畑なんかでよくやられていたよ。全部しっかり取り出したら消毒しておけば大丈夫だよ」。

 小さな卵一つでも残っていたらたまらない。何度も足先を見直した。どこでやられたのだろう。そうだ、素足にビーチサンダルで過ごしていたアマゾンの村だ。気づかずにいて、体に潜んでいたのを連れてきたのだった。しばらくは、まだ卵が奥に潜んでいたら、という気持ち悪さがつづいた。

 アマゾンのジャングルでは小判みたいなでかいゴキブリとか、スマトラの森では色鮮やかなセミとかムカデなどを見かけた。熱帯のパワーが生き物に宿っているかのような生き物たち。けれども、そういう目につくものだけでなく、
目に見えない、菌だか有機物だかもがそこらじゅうにいるのだろう。微小な生物も体内に取り入れていたかもしれない。ときには、そこらの水を口にして、大当たりをしたこともあったし、キャッサバに唾液を混ぜて発酵させた先住民たちの地酒もどれほど飲まされたことか。もしかしたら、そのおかげで、細胞のどこかが刺激されて、ちょっぴり心身が自然に馴染んだような気がしないでもない。

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