大勢の人々が見守る中で、高まる熱気。壇上に一人の人物が立つと、会場の空気がひとつになった。世界の平和のために、ともに祈る。世界からさまざまな宗教者たちが集った祭典のまさにハイライト。聴衆はダライ・ラマの言葉に耳を傾けた。
今から30年ほど前、ブラジルのリオで開催された国連環境開発会議「地球サミット」。同時開催されていた国連グローバルフォーラムへと日本の団体に同行した。現地では“ECO-92”と呼ばれ、さまざまな団体ブースに世界からの人々が行き交っていた。
思えば環境問題の用語もよくわからずして、記憶に残っているのは3つほど。その一つが、ダライ・ラマが登壇したフォーラムだった。多様な価値観や宗教を持つリーダーたちが集い、争いを超えて平和を祈る。戦争の時代と言われた20世紀も末に向かう頃、漠然としながらも希望が感じられたのだった。
もう一つ、印象深かったのは、先住民インディオたちの存在感。自然を守る。そのために集い、声をあげる。自分たちに利するからというのではなく、世代を超えて大切にしなければならないものとして。初めて直に彼らの言葉を聞き、シャッターを切った。カヤポ族族長の姿も。その凛々しい姿が、どこかサムライのイメージに重なったことを思い出す。
もう一つは、市民活動というか市民のパワー。90年代初頭、まだ、NPOという言葉も一般的ではなかった時代。各国の政治家や国際機関の専門家たちの会議とは別に、NGOなど民間の一般市民たちも集い、地球上の環境問題に対する解決策を考える。そこには、それまで知ることのなかった、何か開かれた場のようなものを感じたのだった。
この地球サミットには、172か国の政府代表、企業に専門家、NGOや市民団体など約17000万人が参加。それまでの環境会議と比べて規模が大きく、「持続可能な開発」という概念が提唱されたことが一つの成果だ。人々の生活を改善し、経済成長をしながら、地球環境を守る、という新しい視点。さらに「生物多様性」についても、この地球サミット以降、より広く認知されるようになった。地球環境問題に対する世界的な意識を高めるきっかけにもなった。
あれから30年。科学技術の進歩が加速する一方で、アマゾンの森林破壊は続き、世界各地で異常気象や災害のニュースに接する機会が増えた。肌感覚でも気候変動を感じるようになっている。ただ、再生可能エネルギーの利用ではブラジルは世界でも優等生。豊富な水資源があり、水力発電を主力とする自然エネルギー大国である。2020年、中国、アメリカに続き、自然エネルギー導入は世界3位という。バイオマスや風力発電などの再生可能エネルギーの成長も目覚ましい。けれども、クリーンなエネルギーの開発利用に伴い、環境や人権など課題や負の側面も浮き彫りになっている。それでも、2023年、新たに発足した政権では、先住民族省が新設され、先住民族女性初の大臣が誕生し就任。課題は山積みにしても、スパイラル的な変化をみせるブラジルに目が離せない。