「墨のこえ」を聴きに

「墨のこえ」とはどういうものか。聴いてみたくて展示を見に行った。会場は伊豆の大仁駅((おおひと)から歩いて10分ほどの、知半庵というところ。江戸時代からの古い家屋と、竹林のある裏庭の屋外が展示スペース。そこに、3人の作家(青木一香/アラン・ラオ/ドミニク・エザール)による墨と和紙の作品が点在していた。

まずは玄関入口の土間から。天井の真上、古い梁が暗闇にとける空間に、球体が吊るされている。見あげていると、宇宙に浮遊するような感じもして、飽きることがない。(青木一香の作品群)。表面に墨の紋様がある。見る位置によって世界が変わる。

入口すぐの和室へ入ると、畳の上に一畳ほどの和紙が伸びる。一面に墨の濃淡の紋様。なんと「踏む和紙」だという。絨毯のごとく敷かれた和紙を踏み、感じる。その両サイドには、土間で吊るされていたような、大小の和紙玉が。それも、アルミシートの上に置かれている。その風情はまるで枯山水のごとく。

つづく部屋をめぐる。ドミニク・エザールによる「方丈記」の書があり、その向かいには、山岡鉄舟の作が対峙。次の部屋では縦長の和紙に墨の模様が浮き立つ。筆さばきに筆圧も異なる面、線、点。それが自然光と室内の灯りで表情を変えるアラン・ラオの作品。窓の外には緑が広がり、目の置きどころで違う作品に感じられる。

平屋の裏庭でも展示があり、雨の中を歩く。木々の幹に和紙がはりついていた。ドミニク・エザールによる屋外作品。細い階段を上ると、雨風に揺らぐ竹林に天に伸びる杉の木、その3本ほどの幹に、やはり白い縦長の和紙。塗られた墨が雨でにじみ、木肌をあらわにする。

目で見るだけではない。見えない何かを感じる。そして心が動くのを愉しむ。そんな喜びのあるアート体験だった。

  * 「墨のこえ」 展示終了  知半庵  http://chihan-art.com  静岡県伊豆の国市吉田623-1

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