ドキュメンタリー「銃と鉛筆」「世界のはしっこ、ちいさな教室」ミニ鑑賞記

ひさびさに映画館へ足を運んだ。それも久しぶりのドキュメンタリー鑑賞。何かとネット視聴が増えているなかで、心に響くものがあったので、書き残すことにした。

「鉛筆と銃 長倉洋海の眸」

「鉛筆と銃 長倉洋海の眸」(@東京都写真美術館は終了。他府県で上映スケジュールあり)。チラシには、フォト・ドキュメンタリーという言葉が記されていた。フォトジャーナリストとしてリスペクトする写真家に密着した作品ということで、まず会場へ。そして、思っていた以上に(失礼な表現かもしれないけれど)、感動の余韻が残った。

心にしみたところを考えてみると、その一つは、ひとりの生身の人間の“ヒストリー”になっていたこと。生い立ちから、いまにいたるまでを、時を交差しながらたどる。理想と現実の狭間にもがいた20代、世界に飛び込んでものにしてやるという野心と葛藤。紛争地に身を投じて撮影にのぞみ、歴史的な人物アフガニスタンのリーダーに出会う。アフガニスタン北部同盟を率いた亡きマスード。彼らの闘争に寄り添い、寝起きをともにした彼らとのかけがえのない日々。マスードの亡き後、その遺志をつぐかのように、アフガニスタンの山の上の学校を支援する。古希を迎えた穏やかな語り口とともに、さらに希望をつないでいく姿…

そして何よりも、写真作品に心ときめいた。代表作とも言える、亡きマスードと、その仲間たちの写真の一枚一枚。彼らの命の輝きがまぶしく、いとおしい。心引き寄せられるような、その表情の深み。マスードの素顔に寄り添った数々の写真は、世界の記録として後世に残るべき作品だろう。

さらに、もう一つ。支援をつづけるアフガニスタンの山の上の学校と、そこで学ぶ子どもたちの歩み。マスードへの想いを重ね、支援活動の記録もが織り込まれる。学校で学ぼうという子どもたちの目の輝き。そして、彼らが成長してゆく姿が、いまだ前途多難の様相に、かすかな希望が灯るかのよう。

フォト・ドキュメンタリーと題されていたように、写真作品がふんだんに盛り込まれていた。およそ40年の時をまたいで行き来する、写真という静止画のシーンは、向き合って鑑賞する長めのカットから、テンポよく切り替わったり作品をズームしたり、視点をなぞるように動く映像効果で構成されていた。音楽の相乗効果とともに、大きなスクリーンでの写真鑑賞は、写真展示とは異なる味わいがあった。

ただ、もしこれが映画上映ではなく、テレビのドキュメンタリー番組だったら、もっと、より多くの人に見てもらえるのではないか。そういう思いもよぎった。どうしてテレビ番組ではなく、映画上映だったのだろう。ところが、監督は元NHKのディレクターと知った。あえて映画上映という選択をしたことになる。長年のドキュメンタリー制作の経験と技術に裏付けされ、練られた構成になっていた。写真家、マスード、アフガニスタンの子どもたち、三者が出会い、紡がれる物語。そこから、生きる希望のようなものが余韻として響いた。

「世界のはしっこ、ちいさな教室」

ドキュメンタリー「銃と鉛筆」の、アフガニスタン山の上の学校の余韻をうけて、つづいて、世界の“はしっこ”という教育にまつわるドキュメンタリーを観た(2021 フランス)。

ブルキナファソ、バングラデッシュ、シベリアを舞台に、子どもたちの未来のために日々奮闘する教師と、学ぶことに目覚めていく子どもたちの姿を描いた作品だった。

アフリカの水道も電気もない村に6年単身赴任する教員。いくつもの現地語が入り混じり、子ども同士のコミュニケーションすらもままならない。雪に覆われた極寒の地シベリア。

少数民族の子どもたちのために、自ら犬ぞりで移動しながらテント式教室を設け、言葉や文化を守り教える先生。

格差や貧困を抱える社会で、児童婚も余儀なくされることもある女子たち。自らも苦労して学び身を立てる若き教師。

3つの異なる離れた地域の、教師たちの献身的な姿を通して、子どもたちが未来を開いていく。楽観的にコトが進むかどうかは未知数にしても、教育が未来への希望として、期待が高まる内容だった。そして、いずれも教師として奮闘しているのは女性。その姿を追いかけながら、物語が編まれていく。

このドキュメンタリーから、ある小説を思い出した。同じく、3人の女性が奮闘するストーリー展開で、いまだ記憶に残っている本の一冊。

「三つ編み」著/レティシア・コロンバニ(早川書房)
“理不尽な人生と戦う3人の女性。遠く離れた彼女たちを支えたのは、髪のきずなだった…… 数多くの読者を勇気づけた感動作!”

自らの髪の毛を売ることになるインドの不可触民の女性、毛髪加工工場を支えるイタリアの女性、輝かしいキャリアの裏でガンを患いカツラをつけるカナダの女性。互いに知る由もない3者。髪を通して、彼女たちの運命の物語が交差する…

「フランスで120万部突破、32カ国で翻訳決定、文学賞8冠達成」というのも頷ける作品。秋の夜長にお勧めの一冊です。

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