センス・オブ・ワンダー 〜 初春月・梅見月2024

『沈黙の春』の著者レイチェル・カーソンが最後のメッセージとして世に送り出した『センス・オブ・ワンダー』。そこでは、子どもたちが自然にふれながら、自然の美しさや神秘に目を見はる感性「センス・オブ・ワンダー」の大切さが語られている。

自然にふれながら写真を写すとき、そんな感性が開かれる。そう思っている。そもそも、シャッターを押す、その瞬間には、心になにか「ワンダー」が発動しているのだ。発見や驚きに心動かされ、そこに同調したとき、喜びが生まれる。ちょっとそこら、身のまわりのなにげないところにも、季節の移ろいにも、そんな出あいがある。

今年は新年早々、災害が重なった。出口がみえない戦争のニュースもつづき、無力感にさえおちいることもある。そんなときは、空を見上げるだけでもいい。

1月のある明け方、ほのかに色づいた東の空に細い月が浮かんでいた。まさに初春月。消え入りそうでいて、確かにそこにある。それもつかの間、やわらかな余情を残しつつ、まもなく見えなくなった。そして、同じ東の空には、赤から橙へ色が移りゆき、力強い光が放たれた。

散歩がてらもいい。湘南の海に足をのばすと、富士山がくっきり。雲もない1月の青空に霊峰が清々しい。そこにやってきたのがトンビたち。

以前、身がすくむ場面に居合わせたことがある。「キャーッ!」。急降下したトンビが、目の前にいた人からなにかをかっさらい、一瞬にして空へ飛び去った。開放感あふれる浜で、光る海を見ながら頬張るおにぎりにバーガーは格別だ。けれども、そこは要注意。リュックサックから何か取り出すと、頭上で舞い始める。「来るぞ、来るぞ」「ああ、来た、来た」。一羽、二羽、三羽…

そういうスリルはあるけれど、やっぱり眺めているうちに見惚れてしまう。なんとも優雅なのだ。ゆったりと風にのって舞う姿。あのように飛んでみたいと思わずにいられない。飛翔に同調しようとシャッターを押す。けれども、意表をつく羽ばたきで、ファインダーから姿をくらます。それでも波長があうこともある。

立春をむかえてすぐ、関東にも雪がふった。大雪注意報も。
頭をたれる竹、ふりつもる雪に生える紅梅… しんしんと、音もうまる。
あたりは住宅街だということも忘れ、風雪にシンクロする。

冬木立には寒々しい印象があるかもしれない。それでも、時折、いのちが躍動する気配がある。さえずり枯れ枝を飛び歩く小鳥たちもいるから。そして、枯れ木では小鳥も見分けやすい。それに、羽を膨らませている、ふくら雀なんかも愛らしい。

2月は 如月(きさらぎ)。そして、梅見月(うめみづき)ともいわれている。その名のごとく、梅の開花がそこここに。小鳥たちが忙しく密をもとめて飛びまわる。

寒気が肌にささる夜、ゴミ出しに出た。すると暗い路地の一角がほんのり明るい。街灯に照らされた一本の枯れ木。そこにいくつもいくつもの白い花が輝きを放っていた。凛として、いとおしい小梅たち。そうだ、いつもこの寒い時期に咲くのだった。たたずみながら、心のなかでそっとシャッターを押した。「センス・オブ・ワンダー」には、カメラがなくたってもいいのだ。

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