『世界のともだち3ブラジル』取材余話〜その2:ブラジルって、いいな〜学校と教育から 

     *写真絵本『世界のともだち3 ブラジル』の簡略紹介

     *『世界のともだち3ブラジル』取材余話〜その1:ブラジルの“ふつう”を探して

 リオの小学生の一年に寄り添って撮影取材した写真絵本『世界のともだち 3 ブラジル』。その主人公、小学6年のミゲルの学校には、一時期、毎日のように訪れた。取材をしている中で、へぇ〜と思うことがあった。学校については、小中一貫で1年から9年生まで、授業は午前の部か午後の部どちらかを選ぶ。ミゲルの場合は午前のクラスで、朝早くから教科がぎゅっと詰まった感じ。お昼は家で食べる。夏休みは日本より長く、12月頭から2月上旬まで(補習がある生徒は12月に通う日が増える)。

 こういう制度的なものとは別に、ちょっといいな、と心に残っていることが3つほど。リオという都会の、それも私立の学校なので、広いブラジルの別の地域ではちがいがあるかもしれない。それでも、これまであちこち他の州の公立学校や、日本の小学校を訪れたことからみて、挙げてみたい。

 まず1つは、のびのび自由でオープンな感じ。それと同時に、生徒たちの表現力も豊か。「わたしはこれが好き」「ぼくはこう思う」。子どもたちは、こちらから意見を聞くまでもなく、どんどん話す。奔放になりがちだけれど、小学生のころ、臆することなく表現できるのはいいなと思う。人がどう思うかを気にせず、自分が何を感じ、どう考えているか。そして先生もちゃんと向き合う(ので先生はたいへん!)。子どもたちは自然と自発性や積極性も育まれるように思われた。

 それから、先生と生徒の関係がフレンドリーなこと。学校によって異なるにしても、ざっくりした印象では、上下というより斜めに近い。ときにお兄さんお姉さん、ときにオジさんオバさん。小学生レベルでは、心理的に壁が低い。ハグやチークキスが日常というスキンシップが多い文化も影響しているかな。権威という高みではなく、対話を重視する感じだった。

 こういう人の目を気にしないで個を重視する風潮や、開放的なところは、学校というより、ブラジル全体に当てはまることかもしれない。

 学校の関連で、ちょっといいな、のもう一つは、演劇が授業に取り入れられていたこと。ミゲルが選択科目で選んでいたのは「演劇」。将来、俳優になりたいとも言っていた。この学校では、音楽、美術、身体活動と並んで、演劇が選択科目(ちなみに身体活動は体育とは別の授業)。

 そもそも演劇は子どもの成長に役立つものとして、基本的に学校教育全般に取り入れられているのだった。読み書きだけでなく、情緒の働きや認知力、表現力やコミュニケーション力、そしてチームワークを通して社会性をも高める。そして、取り組むときには、その創造的なプロセスがより自由で自発的であるほどよいという。

 たまたま別のリオの公立小学校を訪ねたとき、中庭の大きな木の下で、生徒たちが賑やかな声を出していた。てっきり休み時間だと思って眺めていると、ひとりの女の子がわたしに話しかけてきた。何をして遊んでいるのと聞いてみる。すると、「赤ずきんちゃん」の劇の練習しているという。それは授業だった。見ててネ! 彼女は仲間のところへ戻ってスキップを踏んだ。先生はかたわらにいて、それを見守っていたのだった。

 役を演じることで、創造力や表現力を、また、多様性というか、自分とは異なる立場を想像することや、みんなで場を作り上げる中で協力し合う力を身につけることができる。場合によっては、問題解決力や批判的思考力も育めると言われている。AIで時代が大きく変わりゆくとき、演劇は人間の成長に役立つにちがいない。

 

 つけ加えて、ミゲルが通っていた学校で意外な驚きをもう一つ。ブラジルでデモがあちこちで行われていた最中のこと。道路封鎖もあり、交通に支障が出たり、世間では左とか右とか政治的な混乱もあったりした。そんなとき、先生たちは通常の授業から変更して、臨時合同会、つまり、学年ごとにフォーラムディスカッションを行っていた。

 「みなさんも知っているように、街ではデモが繰り広げられています。メディアでも右とか左とか騒がれていますね。みなさんはどう思いますか、どう感じていますか。自由に話してください」と声をかけた。生徒たちからは「よくわからない」「ちょっと怖いと感じる」など、それぞれ自発的に話をした。一通りの意見が出ると、先生は、「このテーマについて、みんなの考えを共有しましょう、フェイスブックのページも立ち上げます」と言った。

 参加していたのは7年生から上、日本で中学生に当たる学年の生徒たち。8、9年生の集いでは作家を招き、7年生の集いでは右とは資本主義、左とは労働者を重視した考え方などを簡単にわかりやすく説明していた。いまブラジル中で何が起きているのか、何故デモが起きているのか、政治的な出来事も含み、先生たちも交えて話し合うというもの。

 社会の混乱が子どもたちを不安にさせる。そのリスクに対しての配慮だったのかもしれない。けれども、政治的にもややこしい、その渦中で、大人ですらよく状況がつかめないでいるときに、小学生と一緒に課題を見すえようとする。それができることにちょっとした感動があった。

*写真絵本『世界のともだち3 ブラジル』撮影取材のこぼれ話
  つづき 〜 その3:ブラジルって、いいな 〜 日々の暮らしから


 

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