絶版になっていた『アマゾンの呪術師』が電子本で復刊。
『アマゾンの呪術師』地湧社
パブロ・アマリンゴ/語り 永武ひかる/構成・訳
ペルーアマゾンの元シャーマンの画家パブロ・アマリンゴが語る、神秘に満ちた植物と精霊と呪術師の世界、そして、脳と心とは、人生とは… 数奇な体験から語られるメッセージ *シャーマンの世界を描いた絵画作品数点掲載
パブロ・アマリンゴが語った録音を起こして、翻訳、構成したのがこの本だった。出版されたのは1998年。それからおおよそ四半世紀。パブロは2009年に逝ってしまったが、絶版になっていた本が電子本でよみがえった…
元シャーマンの画家パブロ・アマリンゴに出会い、作品を見たり話を聞いていた当時、現役のアマゾンの呪術師たちを訪ね、機会あるごとに治療儀式にも参加した。パブロが語った通り、呪術師たちだれもが一定の修行を積んで、薬草などを使っていた。けれども、都市化が進む環境では、伝統文化も変化を余儀なくされ、呪術師たちの儀式も観光化が進んでいた。なにより、どんどん森がなくなり、自然が遠のいていた。ある呪術師が言っていた言葉を思い出す。「自然は魔力。自然を学び、わたしたちはその力を使っている。自然がなくなればこの魔力もなくなる」…
あれから、さらに時代は進んだ。世の移り変わりとともに、いまの呪術師たちはパブロが現役だったころとは異なるだろう。その意味では、元シャーマンのパブロが描いたアマゾンの精霊世界は民族誌的な魅力が高まるかもしれない。そして、その語りも…
パブロの作品に「アヤチャキ」と題された絵があった。“死者の足”とでもいう森の精霊だ。地面を離れて歩くらしい。パブロによると、「先住民たちは秘密の薬草を使って、足をアヤチャキにしている」という。あたかも精霊のようになって歩くから、森でも、草や小枝を踏む音などしない。私たちが歩くと、騒がしく音が立つ。そして、トレッキング・シューズがまるでブルドーザーのように草地を踏みつぶす。
山岳の密林に暮らすアシェニンカ族の地域に行ったときのこと。森の山で、彼らの歩き方はまさに神業だった。上り下りのはげしい道なき道を、風のように行ってしまう。裸足で、しかも、重い荷を担ぎ両手は塞がれているというのに。細い丸太を渡しただけの川や谷を真下に、絶妙なバランスで、かろやかに行く。勾配の急なところでは、お尻で滑ってばかりの私はと大違い。シューズも泥まみれ、粘土質の土がびっしりついて重りのよう。それに比べ、彼らの素足はきれいで傷もなかった。彼らの足はきっと「アヤチャキ」になっていたにちがいない。
パブロのいくつかの作品に、色薄く半透明に描かれた人たちの姿があった。インカ時代の戦士のような群団から、うじゃうじゃと集まった顔、顔、顔。きくと、先人たち祖霊だとか。呪術師たちを導き助け、見守りつつ、時とともに薄らいで、そして自然に帰っていく… その世界の受けとめ方が、どことなく、日本の風土に根づいた文化にも通じるようにも思えた。
元シャーマンが描く作品、そして語る世界のおもしろさは尽きることなかった。けれども、本人の実人生の話も、またさらなる驚きの連続だった… 次回につづく
*追記:
『アマゾンの呪術師』電子書籍での復刊によせて
〜その1:パブロ・アマリンゴとの出会い
〜その2:パブロ・アマリンゴが語る呪術世界から
〜その4:パブロ・アマリンゴの人生から
〜その5:元シャーマンの画家パブロ・アマリンゴ、教育者としての顔