「写真に感情移入ができない」時代?

「子どもが戦争写真に感情移入できない」。ネットでたまたま流れてきた文字が目にとまった。見出しがあったYoutubeをクリックすると、VR最先端の話だった。

PIVOT [EXTREME SCIENCE]【VRは人間の想像力を拡張できるか】

https://www.youtube.com/watch?v=VKlj_DmoIgU

幅広いテーマを網羅して視聴者が増えているというYoutubeチャンネルのPIVOT。その中で、脳科学者の茂木健一郎さんとジャーナリストの竹下隆一郎さんがMC役のサイエンスやテクノロジー最前線を深掘りするEXTREME SCIENCE。

この時のゲストはVR研究者・小松尚平さん。最先端の研究や活用事例として「戦争VR」も紹介。そのくだりでの発言が、子どもたちが写真に感情移入ができない、だった。

ちょっと待って、感情移入できないって、どういうこと? MCの茂木さんが間に割って入る。すると、広島の展示で、いまの子どもたちは、戦争の写真を見ても、それが何の写真だかわからない、というのだそうだ。

平成もくだって生まれた新しい世代は、生まれた時からスマホがあって、自撮りに様々なSNSがある。そんな子どもたちにとって、戦争の写真はなんだかわからない、と。写真とか動画とか、メディアに感情移入できないのだという。ただ、そう言われても、すぐには飲み込めない。そのような傾向があるということなのだろうか。

平成元年生まれの小松さんは、そういう子どもたちが理解できるという。昭和などの世代は、それまで写真の見方、動画の見方をわかっている。だから、そこにいたらどうしよう、と想像することができる。そこに没入できたり、体験をシュミレーションできたりする回路がある、と。

平成から令和へ、戦後80年近くになると、直接話を聞いたり説明してもらったりする機会はほとんどない。だから、写真や動画など昔のアーカイブを使って、当時の状況を理解してもらうべく、「戦争VR」を作り、広島の展示でも使われたという。

VR体験は「イマーシブ(没入感のある)」で「ナラティブ(物語性のある)」。ただ、個人的なささやかな体験では、自分のメガネを装着した上にVRゴーグルをつけたせいか、身体的な窮屈さもあって没入感は期待していたほどではなかった。けれど、視力補正機能のある(メガネ不要の)Apple Vision Proも発売されたし、将来的にはゴーグルなど使わないで体感できるようになることもあるのかもしれない。

番組では、「写真に感情移入ができない」問題にはとどまらず、次々と別の話題に展開していった。それだからか疑問がくすぶり残った。生まれたときからスマホやタブレットが日常になった。それが心身へ影響しないわけはない。それにしても、感情移入ができないという、その状況はどういうなものか、原因はなんなのか。受け取る情報の問題なのか、認知とか感性とか、または共感の関係もあるのか。

そもそも大人だって、一枚の写真を見ただけだと、人によって写真の受けとめ方はちがう。どういう状況で写されたものなのか、キャプションがあってもわかりにくいことだってある。言葉なしで面白いと感じたり、感情の機微に触れるものがあったりする一方で、知性のアンテナと連動することで、味わい深く感じるものもある。

ここで、感情移入と共感について、頭の中でごっちゃになっていることに気づいた。この時勢、AI先生に聞いてみた。

以下、AI先生:

「共感」と「感情移入」は、どちらも他者の感情や状況を理解しようとする行動を指しますが、それぞれ少し異なる意味を持ちます。

・共感 :他者の立場や気持ちに理解を示し、一緒にその感情を味わうこと。その能力。共感には、以下の要素が含まれます。
 認知的共感: 他人の視点や状況を理解すること(たとえば、友人がなぜ悲しんでいるのか)
 情動的共感: 相手の感情を自分の感情として感じること(友人が悲しんでいるときに、自分もその悲しみを感じる)
 共感的関心と行動的共感と共感的関心: 相手の気持ちを思いやり、寄り添い、適切な行動をとること

感情移入:自分が相手の立場だったら、どのように感じるか想像すること。自分の経験や価値観に基づいて、相手の感情を推測する。感情移入には、以下の要素が含まれます。
 視点転換: 自分の視点から相手の視点に移ること
 想像力: 相手の状況や感情を想像すること
 感情投影: 自分の感情を相手に投影すること
 同情: 他者の苦しみや困難に対して、自分もその感情を感じること

共感と感情移入の違い
共感は、他者の感情や状況を深く理解し、その感情を共有することを含む広い概念です。他者の視点に立つことを重視し、その人が何を感じているのか、なぜそう感じているのかを理解しようとする積極的なプロセスです。
感情移入は、他者の感情に対して同情や慈悲の気持ちを抱くことに焦点を当てていますが、必ずしも深い理解を伴うわけではありません。感情に対する反応としての同情や思いやりを含む、やや受動的なプロセスです。

*「回答が必ずしも正しいものではありません」

目次

先日、ランチで2歳の幼児が一緒だった。お腹いっぱいに食べると、その子は親の手にあまる動きを始めた。すかさず親がスマホを取り出し、その子の前に置く。すると、幼児はスマホをじっと見つめ、おとなしくなった。ときどき声をあげて笑ったり、画面を指さしたりして、その楽しげなふるまいが、まわりを明るくする。あまりに喜んでいるので、何を見ているのかと思ったら、世界的に人気のアニメ「おさるのジョージ」だった。

動画ならなんでもいいというわけじゃないけれど、写真ではこうはいかない。なんといっても音や動きがある。静止画にはない利点がある。そして、前述のVR研究者は、動画を超える分野の研究と活用を進めているのだった。

写真の歴史はまだ200年にも満たない。その上、技術の変化とそのスピードは凄まじく、それぞれの機器が人間の身体や感覚、認知にもたらす影響を吟味するまもなく、次々と移り変わっていく。とはいえ、写真は、瞬間を切り取り、感情やストーリーを伝える力のあるツールであり、時を越えるメディアでもあることには変わりない。

自らの経験では、大人になってから見た写真の中で、衝撃だったいくつかは戦争のものだった。たとえば、戦時中の軍隊によるものとしての悲惨な光景。戦争の体験を聞いたり映像を見たりしたことはあっても、自国の加害側としての残虐さがあらわになった場面をほとんど目してこなかったこともある。そして、ベトナムで訪れた戦争証跡博物館の展示の数々も記憶に焼き付いた。

写真に感情移入ができないという時代の子どもたち。それでは、写真を見てもらうとき、どうしたらいいのか。ふたたびAI先生に質問してみた。その返答から、忘備録としてメモをしておこう。

子どもたちに、写真を見てもらうとき、
・歴史的文化的な背景や意味を適切に伝えましょう
・写真一枚だけでなく、撮影された状況、人物の背景など、何が起こっているのかという説明をしましょう
・戦争の写真など重たいテーマの場合は、年齢に応じた言葉で丁寧に解説しましょう
・激しい感情を引き起こすかもしれないような写真を見せるときは、子どもたちが恐怖や不安を感じないようにサポートしましょう。教師や親がそばで感情を共有したり、話し合ったりする。ちなみに、アウシュビッツの見学は、14歳以下は推奨されていない。
・メディアリテラシーも必要でしょう。写真やメディアがどのようにして情報を伝え、影響を与えるかを理解してもらうようにしましょう。昨今はフェイクもあるので、批判的思考能力も養えるように。
・特定の写真だけに焦点を当てるのではなく、異なる視点や背景を持つ人々の経験も紹介して、子どもたちに広い視野で情報を捉えてもらうようにしましょう

AI先生は、瞬時に回答してくれた。どれもこれも、もっともなことだと納得。ただ、ちょっとだけ、何か満たされない。

はて、なんだろうと、あらためて思い浮かんだのは『センス・オブ・ワンダー』。子どもたちが自然にふれながら、自然の美しさや神秘に目を見はる感性の大切さが語られている。『沈黙の春』の著者レイチェル・カーソンが最後のメッセージとして世に送り出した本。そのセンス・オブ・ワンダーは、共感や感情移入の力を高めるのに役立つのではないか。

日々の生活の中で、自然とふれあったり、好奇心を持つようにしたりして、自然や世界に対する驚きや不思議さを感じ取る。その一つとして、写真は、驚きや不思議の感性とシンクロするや魅力的なツールである。

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